大和物語へのオマージュ「ほたる」(自作曲)

 この大和物語40段は、身分の高い二人の恋愛に、仕える少女が片思いを抱くというもので、その身分関係と年齢など、原文をそのまま現代語に置き換えた方が、自由に内容を変えるよりもずっと魅力的で、つまりは時代を超えて、詩興を沸き起こすように思われたので、原文をもとに現代語に移し替えてみました。ついでに原文もあらためて歌ってみるもの。

「ほたる」

     原作 「大和物語」
     翻案作曲 時乃志憐

桂(かつら)の皇女(みこ)と式部卿の宮の 恋に落ちた頃
その宮に仕える おさない少女
式部卿の宮を ひそかに思って
初恋の夢に なみだするのを
宮は気づきもせずに……

ほたるの飛び交う 夕ぐれに
「捕えてきて」と この少女に語りかければ
着物の袖に ほたるを捕えて
包んで 宮に見せながら
そっとささやいた

包んでも
  隠せないものは 沢のほたるの
 身よりあふれる ほのかな思い

大和物語40段「ほたる」

桂の皇女に 式部卿の宮すみたまひける時
その宮にさぶらひける うなゐなむ
この男宮を いとめでたしと
思ひかけたてまつりけるをも
え知りたまはざりけり

ほたるの 飛びありきけるを
「かれ捕へて」と この童(わらは)にのたまはせければ
かざみの袖に ほたるを捕へて
包みて御覧(ごらん)ぜさすとて
聞こえさせける

つゝめども
  かくれぬものは 夏虫の
 身よりあまれる 思ひなりけり