仕事日に
向かう途中ひらく桜は満開で、わたしは休憩時間を抜け出して、夜桜を見に、公園へと舞い戻る。
ベンチに腰を下ろして、買ってきたお握りなどをいただくと、かつては賑わいだ公園の花見客も、街の活気の落ちぶれて、いまは華やぐほどの人影もなく、それでも花に誘われて、人々の姿は提灯の下にちらつくのだった。
そうして寒くもなく、穏やかな春の日が、すぐまた消えるであろう人々の、つかの間の共有を誘っている様子だった。
近くで犬が吠えている。
花見の家族が放し飼いに連れてきた。
花に興じるのではない。ただ飼い主の穏やかな調子に釣られて、うれしそうな屈託もない仕草で、小さな犬が、青いLEDランプを首輪にして、あちらの方へと歩いて行く。するとすぐ横の車道に、不法駐車したワゴンから、一家総出といった様子のお年寄りから若者まで、繰り出して花を仰いでは、写真を撮ったりしているのだった。
駐車違反を恐れた運転手が、家族から離れてワゴンで待っている。でも我慢できなくなったようで、とうとう手を振る子供らの方へと歩いて行った。こんな長閑さを取り締まる警察官がいたなら、それが規則ではあっても、彼こそが犯罪者ではないのか。そんな気分にもさせられるのだった。
見上げれば夜空には、こちらを眺める月の姿が、花越しに遠くから、穏やかな光を贈ってくれるなら………
こんな穏やかな春の日が、なんだか尊いもののように思われた。
そうしてまた、仕事なんかは辞めにして、ずっとここで眺めていたいような、のどかな気持ちが沸いてきて、それを実行する気すらなくなっている、精神の奴隷を感じては、ちょっと悲しくなったりもするのだった。