大和(やまと)においてサワー(sour)とは、特に戦後広まった、レモンなどの何らかの味覚を加えた、焼酎の炭酸割りを指すようになった。(本格指向によって、カクテルバーなどでは、本来のサワーが提供されるであろう……)
大和(やまと)においてハイボール(highball)とは、特にウィスキーを炭酸水で割ったものを呼ぶようになったが、そのウィスキーのかわりに、大和伝来の蒸留酒、焼酎を使用したものが、「焼酎ハイボール」すなわち「チューハイ」と呼ばれるようになった。
これらの定義はきわめて曖昧で、借用名義の流行したもん勝ちであったため、レモンの炭酸割りのアルコール飲料は、「レモンサワー」とも「レモンハイ」とも呼ばれ、炭酸の含まれない焼酎割りが「ウーロンハイ」などと呼ばれるような、切ない二十一世紀を迎えた。
それにも関わらず、わたしたちがそれを注文するさいに、おおよそ定型的なイメージが浮かぶならば……
その呼び名はもはや、大和のものであると言えるでしょう。けれどもまた、たやすく他の名称へと変えられる、暫定的なものには、過ぎないとも言えるでしょう。結論を述べるなら、ここではアルコールの炭酸割りをもって、「サワー」と定義するにとどめようかと思うのです。
チューハイとはなにか。それは焼酎ハイボールの略である。それなら焼酎ハイボールとはなにか。もともとハイボールとは、ウイスキーを炭酸で割ったものである。しかしウイスキーなど高級品だった戦後のとある頃、どこかの誰かがヒットさせた、ウイスキーの代わりに甲類焼酎を炭酸で割ったものが、いつしか庶民の味となり、チューハイとして定着したという。
それなら、もはや、炭酸入りの割りものをこそ「チューハイ」と宣言し、レモン汁を加えたものを、レモンチューハイ、略してレモンハイと宣言すれば良いところ……
一方ではヨーロッパやアメリカで、蒸留酒に酸味のきいた柑橘類を入れたカクテルをサワーと呼ぶのだが、いつしか我が国ではレモンサワーという名称が、市民権を獲得してしまったらしい。諸外国の皆さまは、炭酸を加えずに、純粋に蒸留酒で割るようなカクテルをこそ、サワーと呼んでいるというのに……
さらにおかしな事に、焼酎で割ったからこそチューハイであったものが、近頃は缶チューハイの名のもとに、ウォッカ割が売られているのは不可解なことである。個別の名称が、もとの意味を乖離して、別の価値へと変遷する刹那を、チューハイのもとに探求してみるのも、面白いかも知れない。それはさておき……
しかれどもウォッカは、甲類焼酎より、はるかに癖のない、透明度の高い蒸留酒である。したがって、果実の糖度と炭酸だけで割る場合、甲類焼酎よりもキリッとした、ピュアな果実の味を楽しめる。もっとも大切なことは、アルコール度数の高さで、炭酸水をより多く使用できるウォッカによる炭酸割は、自宅におけるカクテルの、救世主といっても過言ではない。
結論を述べれば、ウォッカベースの炭酸割りをもって、わたしもまたサワーを主張するまでのことであった。
炭酸水の市販品は、炭酸の強さに大きな違いがある。炭酸の強いものを見いだすことが、「サワー」を楽しむ秘訣であると言えるかも知れない。
食品スーパーのプライベートブランド(PB)には、劣悪なものも多い中、アサヒの委託で製造している「セブンプレミアムの炭酸水」(セブンイレブン・イトーヨーカドーなどのPB)は、有名企業の炭酸水よりも炭酸が効いている。しかも余計なものを入れていない。なかなかのおすすめ商品である。(もちろんまわしものではありませんが……)「ウィルキンソン」もおすすめだが、どちらもフレバータイプではなく、無味の炭酸水を購入した方がよい。(ただのアルコールの炭酸割りなら別だが、他の味が加わるときに邪魔になる。レモンサワーを作るときでさえ、レモンの風味は、かならずしもプラスに作用しない)
炭酸の持続には限りがあるので、大人数で一斉に作るような場合以外は、多少割高になったとしても、500mlのペットボトルが最良である。さらに空になった500mlのペットボトルと、計量カップを利用して、例えば150ccであれば、150ccずつのメモリを、マジックか何かで記しておいて、次の炭酸を入れるときの目安にすれば、ペットボトルから直にグラスに炭酸水を注げるので、炭酸のロスが少なくて済む。計量カップに移して、それをさらにグラスに注ぐのでは、炭酸のロスが大きいので、あまりおすすめできない。
炭酸水を翌日まで持続させようなどとは、酒に対して冒涜であり、炭酸に対する挑戦である……かどうかは知らないが、炭酸水は割高でも、小さめのものを購入して、入れるごとに開けるくらいが理想。もちろん、わずかな時間で使い切ることを前提に、ペットボトル内部の空気圧力を高めるための「炭酸持続キャップ」(そんな名称ではないが)を使用することは、それなりに有意義である。けれども、それが翌日まで炭酸を保てないからといって、商品を糾弾するのはあまりにも的外れである。どんなにあがいても、炭酸は、開封した途端に、大いに抜けはじめる。
理想を述べれば、あらゆる炭酸系の割り物は、その日に飲みきるだけの「炭酸水」を購入するべきである。
液体として販売されている「レモン100%」などの果汁100%と、果物を絞った果汁100%、一般に「生搾り(なましぼり)」と呼ばれるものとでは、味がかなり異なってくる。「果実を搾るのでなければ、飲みたいとは思わへんで」そんな、もののふの叫びが、今でもこころに響くなら……
そうだ、スクイーザーを購入しよう。それから、果物を購入しよう。「飲むための金をけちるな。けちるくらいなら飲むな」たしか、太宰先生も、そのようなことを言ってはいなかったか?
ともかく、まずはレモンサワーで、生搾りの炭酸割りの基本をマスターしてみるのも悪くはありません。
[材料]
・ウォッカ 50cc
⇒アルコール、30度後半から40度前半くらい
・レモンの絞り汁 一個の半分(20cc~30ccくらい)
・炭酸水 150cc
・残りは氷
① 甲類焼酎(アルコール濃度25%くらい)なら[焼酎:炭酸]が[1:2]を基本とする。しかし、ウォッカはアルコール度数が高いので、[1:3]を基本とする。(味覚的にもこちらの比率の方がよい)これによって、多めに炭酸水を使用することが出来るのも、ウォッカをおすすめする由縁(ゆえん)である。
当初は、[酒:炭酸+レモン汁]と、果汁を込みで考えていたが、果汁が20~30mlくらいの場合は、抜きで考えてよいようだ。
② 氷を先にするとグラスが冷えてなど、バーテンダーのうんちくならいくらでもある。しかし、先にグラスに[酒+果汁]を加えて、炭酸水を注ぎ込みながら混ぜてしまう方が効率的なので、氷は最後に入れるとよいかと思われる。より冷たいのが飲みたい人は、予めグラスを冷蔵庫に冷やしておく。
③ レモンを半分に切って、スクイーザーなどで果汁を取る。それと、ウォッカ50ccを混ぜ合わせて、グラスに投入する。茶こしなどで、濾過した方が不純物が舌に付かないのでおすすめだが、自宅なら、漉さずに果実カスなども、投入してしまってもよい。(ただし、濾さずに、果実を一緒に投入すると、グラスにこびりつくので、終わったらよく洗いましょう)
④ 炭酸150ccを注ぎ入れる。炭酸が入っているので、軽く炭酸が抜けないくらいに軽くステア(かき混ぜ)する。もっとも、うまく炭酸を注げば、自然に混ざってしまうので必要ないかもしれない。
⑤ 最後に、グラスの大きさに応じて、氷を投入して完成。
[注意]
25%くらいの焼酎で作るときは、だいたい[焼酎:炭酸水]を[1:2]くらいに設定する。たとえば、[焼酎70CC]に対して[炭酸水140cc+レモン汁20CC]など。焼酎は、連続蒸留焼酎(焼酎甲類)の方が、素材(芋とか麦とか)の味覚が喪失して、エタノールの純粋な飲み物に近づくので、ハイやらサワーといった割もの(炭酸や水)には適する。
[注意2]
炭酸ではなく、水で作ると、炭酸なしのピュアな飲み物になる。炭酸は歯を溶かすとして、これを避けるもよろしかろう。(もっともレモン水だって、歯を溶かすけど……)
味覚的には、炭酸入りが、不思議なくらいレモンの甘味を高めてくれるのに対して、水で割ると、おおよそ、その63%くらいの愉快がある。なかなかに美味しいが、プチプチしたはじけるような楽しみは、炭酸に2、3歩ゆずるかと思われる。もちろん悪くはないけど……
レモンに関しては、炭酸との親和性が高いことは事実である。
[注意3]
酸味が苦手な人はガムシロップなどとあるが、そんなことをするよりも、もっと甘みのある果実で割るか、あるいは、[レモン+他の果汁]でブレンドして甘みを出す。あるいは「甘味の入った炭酸飲料」、たとえばサイダー、ジンジャーエールなどを使用するのがおすすめ。
[注意4]
不思議なことに、レモン風味の炭酸を使用すると、その炭酸水では、かえって苦みが出て、うまくいかなかったことを、参考までに付け加えて置く。ジャスミン割りは、ジャスミン焼酎が優れた効果を発するが、相乗効果とならない場合もあるようだ。
[作り方]
・レモンハイ(レモンサワー)と全く同じ作り方で、「ライム半分」を使用する。レモンよりも、ちょっと青々しいような、グレープフルーツめいた味覚がわずかに混入するような、そんなすがすがしいサワーの完成です。
シークァーサーサワーのサの字の連続は、めんどいので、短縮されてしまうに違いない。シマンチュには悪いが、沖縄の泡盛ではなく、ロシアの奇跡、ウォッカで割るのが、やはり一番ピュアな果実味を確かめられる。
[作り方]
・レモンハイ(レモンサワー)と全く同じ。シークァーサーを、出来れば実で、レモン半分と同じくらい、すなわち「20~30cc」くらい絞る。だいたい五つの粒で30ccになる。おまけに包丁で二つに割って、茶こしなどを利用しながら、指で潰すと簡単に絞れるので、慣れるとそれほど面倒ではない。それが嫌なら、100%ジュースを使用するまでだが……
[とにかく]
・シークァーサー20~30cc、ウォッカ50CCと、グラスに投入して、150CCほどの炭酸水を注いで、最後に氷を入れて完成。
[泡盛も慣れると美味しいよ]
・アルコール度数30~35度の泡盛を使用。若干ウォッカ版よりもアルコール度数が減るが、泡盛は50CCで、ウォッカと同じ比率がおすすめ。これに関しては、炭酸ではなく、ただの水割りにしたものも、非常に美味しい。かえってこちらをお勧めしたいくらい。
以外と甘みの強いレモン、レモンよりはさわやかだが甘みさの抜けきらないライム、に対して、さっそうとした酸味を持つスダチは、おそらく酸味を求める柑橘系のサワーの中では、最上級の味わいを誇るように思われる。
①
・酸味が強いので、すだちは20ccを基本量(20cc弱で十分美味しい)とする。だいたい、四つから五つの粒くらい。半分に切ったものを、スクイーザーの先端である程度絞り、さらに残った果実を潰すようにして果汁をしたたらせる。
②
・注意点は、皮のあたりが非常に苦みが出る点で、控えめに絞るのがコツである。いいや、絶対条件である。もったいないからなどと思って、絞りきると、苦みが出てくるから注意である。
③
・小さな種が結構入るので、絞った果汁を茶こしなどで漉して、おおよそ20ccになるように計量。そこに50ccのウォッカを注ぎ入れる。
④
・これをグラスに注いで、150ccの炭酸水を加えれば出来上がり。最後に氷を入れる。
[材料]
・ウォッカ 50CC
⇒アルコール、30度後半から40度前半くらいのもの
・グレープフルーツの絞り汁(50cc)
⇒半分絞ると、二杯分、100cc前後くらいになる。
・炭酸水 150cc
・残りは氷
[作り方]
・グレープフルーツの絞りは、かなりの果実が混入するので、レモンと違って、漉した方がよい。後は、レモンサワーと同じ作り方。果汁の分量だけが違う。量もレモンサワーより、多めになる。
[材料]
・ウォッカ 30CC
⇒アルコール、30度後半から40度前半くらいのもの
・オレンジの絞り汁(70cc~80ccくらい)
⇒これもスクイーザーで絞ったのち漉す
・炭酸水は100cc
・残りは氷
[作り方]
・オレンジは薄くなりすぎる。またアルコール成分が、強く舌に感じられるので、まずはウォッカを減らし、[ウォッカ+オレンジ]と[炭酸]を、ぴったり同量にする。少量なので、小さいグラスで楽しむか、倍作るとよい。
というわけで、そのウイスキーの癖を消して、逆にウイスキーの気配を楽しむくらいの、フルーティーなサワーにするには、実に簡単な作業で事足りる。すなわち、先に記したレモンサワーの作り方そのままに、ウォッカをウイスキーに変えるだけである。十分に溶け込んだレモンの果汁が、驚くほどウイスキーの、憎たらしさを消して、レモン果汁と融合してくれる。その時、ウイスキーは、ちょっぴりほろ苦いようなアクセントとして、新たなる生命を得るのであった。(ちゃんちゃん。)
梅酒サワーは簡単である。アルコール度数10度から15度くらいの梅酒なら、[梅酒:炭酸]の比率を、[1:2]で混ぜ合わせるだけだ。梅酒の味によって、味覚が変わってくる。自宅で漬けた梅酒の場合は、もっとアルコール度数、糖度が高くなるので、甘すぎると感じたら、[1:3]くらいにしてもよいかもしれない。
[材料]
門外不出の禁断の味とされる粉雪サワーのレシピを記すことは、私にとっては生命を賭する危険性を孕んでいる。今はご容赦願いたい。それにしても、あの、舌の上で、雪のとろけるような、それでいて果物じみた、その味覚と来たら……
リンゴやらオレンジジュース100%で割るというのは、かなりの甘口カクテルをお好みの方には、美味しい飲み方かもしれない。その場合は、[焼酎:ジュース]が[1:3]だと、ジュースそのものの甘みに、アルコールを隠すような味わいが、[1:2]だと、ちょっと薄らいだジュースの甘みを、アルコールがフォローするような楽しみがあるので、お好みで試してみたらよいでしょう。
2010/07/23
2016/03/28 移行時炭酸量修正