「湯豆腐には絹ごしがよく似合う」
そう太宰先生がおっしゃられたかどうだか……
それは今となっては分からない。しかし凝固剤で固めただけの「絹豆腐」よりも、それを崩して水を絞って、再び固めたような、「木綿豆腐」を使用したからといって、なんの咎(とが)もないのである。(ただしちと硬派)
信頼できる豆腐屋さん……などあればよいが、近所のスーパーで探すなら、国産の大豆を使用したもので、凝固剤として「にがり」あるいは「塩化マグネシウム」とのみ記入のあるもの。一方で「消泡剤」「グリセリン脂肪酸エステル」などの記入のないもの。つまりは原料としての「大豆」、凝固剤としての「にがり」以外の記載のないものがよいか。
「消泡剤」とは、投入の泡を取り除くための物質で、ロスを少なくするために便利であるとか。「グリセリン脂肪酸エステル」はその代表選手。もっとも、「消泡剤」が入っているから美味しくないという訳でもないが、ひとつの目安にはなるかもしれない。
いずれ、なかなか味に差のあるのが豆腐なので、どうせ豆腐くらいと、特売品を買いあさる精神から抜け出して、高い必要はないが、自分の好みの豆腐を見つけ出すくらいのバイタリティーは必要かとも思われる。
繰り返すが、味のしっかりした美味しい豆腐を見つけ出すことが、美味しい湯豆腐の決定事項となる。ここでつまづくと、どれほど調理を駆使しても、素敵な湯豆腐はいただけない。裏技という名の誤魔化しへと落ちぶれるのみ。そうして、美味しい豆腐を見いだしたなら、その、他の食材よりは淡い甘みと味わいの心地よさには、ポン酢でさえも主張が激しく、重曹などは味わいを破壊する以外の何者でも無いことを知るだろう。つまりは、他の食材など加えずに、ただ湯豆腐をいただきたくなるには違いない。
そんなシンプルな湯豆腐だが、かといってダシや塩分を拒み、ただ食材の味わいにのみ生きるものではない。やはり的確な調味料を加えた、だし汁の中でこそもたらされる、調和の霊感というものが存在する。それをこそ人は「湯豆腐」と呼ぶらしい。
ただその味わいが、他の食材と異なるところにピーク値があるが故に、美味しい湯豆腐をいただきたいなら、ただだし汁のうちに豆腐がおどるのみの鍋をこそ、理想とするというまでのこと。
なかでも和食の王道である「鰹昆布ダシ」に泳がせるこそ、シンプルさとリッチさを兼ね揃えた、美味しい湯豆腐の方針であると、わたしは信じて疑わない。ただし、洋風に「鳥がら」を使用するものを、バリエーションとして楽しんでみるのも、また美味しいものである。やり方は、「ためしてガッテン」の、大量のお湯をわかして火を止めてふたをして五分後がおいしいというやり方を踏まえるが、いつもながら勝手に改変させてもらう。
①
ダシを作る。昆布は30分くらいつけて水ダシを作っておく。かつお節は自宅で削るのが理想。削り節を購入するのが現実か。昆布をひたした水にかつお節を投入してから、弱火に掛ける。10分くらいで60度になるくらいの火力。60度になったら火を止めて、キッチンペーパーなどで濾す。これでダシは完成。
②
ダシに対して、0.5%の塩を加え、沸騰させて火を止める。適当な大きさに切り分けた豆腐を投入して、蓋をして5分たったら出来上がり。ダシの量は、豆腐が300gくらいなら、800ccから1000ccくらい。
③
熱々に茹でるより、この完成状態で、ダシごとよそっていただくのが、豆腐の美味しさをもっとも引き立たせる……ような気がする……
④
豆腐の味わいが淡泊なところにピーク値があるので、上の塩分量で、余計な調味料を加えないのが、美味しさの秘訣かと思われる。薬味も、素材と調和してさらなる高みに到達するようなものではなく、加えるべきではないようだ。。
湯豆腐だけでなく、総合的な鍋としての湯豆腐の場合は、豆腐だけの味わいにこだわるよりも、鍋全体の愉快に貢献すべき、ポン酢を利用するのがおすすめ。また食材は、具材のアクを出汁に出さないことが、おいしさの決め手になる。そのためには、以下のような、出汁にえぐみや雑味を加えてしまうものは、別の鍋で下ゆでを済ませておくことが重要。(沸騰させたまま、順番に全部茹でてしまってよい)
菜っ葉もの……小松菜、ほうれん草、春菊など
キノコ類………エノキダケ、シメジなど
こんにゃく……しらたき、糸こんにゃくなど(もし入れるなら)
あぶら揚げ……湯通ししておく(一緒に下ゆでしてしまってもよいが)
鶏肉など………加える場合は、50度に5分から10分くらい付ける
⇒臭みなど、アクを抜くため
作り方としては、ネギ、白菜のかたいところなど、火の通りにくいものを、出汁に投入してから点火し、中火くらいで加熱。比較的煮えやすいもの、たとえばネギの青いところ、白菜の柔らかいところなどは沸騰してから投入。下ゆでしてあるものは、豆腐と一緒に、火を弱火にしてから加えて、鍋にふたをして5分たったら出来上がり。(湯豆腐鍋なら、火を止めて5分などこだわらないで、弱火で5分くらい豆腐も茹でてしまってよい。)
こちらは薬味を並べ、0.5%の塩分にした出汁に、さらに自家製ポン酢で味を調えていただくのがおすすめ。ちょっとぬるくなったら、加熱するが、沸騰を続けずに、熱くなったらまたすぐに火を消すのがよいでしょう。
そんな訳で、美味しい湯豆腐と、お鍋を、共に楽しみたい場合は、はじめはシンプルな豆腐だけの湯豆腐を楽しんで、それが終わってから、他の具材を投入しつつ加熱して、ポン酢を加えながら、普通の鍋としていただくというのが、もっともおすすめの方針かと思われる。
そんな時も、下ゆですべき具材は、あらかじめ下ゆでしてから、お皿に並べておくとよいでしょう。最後は、うどんでも投入するのも楽しいかも知れません。なかなかにポン酢にも合うので。
鍋にダシ昆布5gくらいを敷き、水カップ4 (800cc)(参考に量を定めただけなので、必要に応じて全体の量を変えてください)を加え、塩小さじ1、粉の緑茶小さじ2を加えてから加熱。(昆布は時間があれば、あらかじめ水に漬けて水ダシを取っておくのがベスト)
このだし汁で湯豆腐を作ると、色彩的な楽しみがあるので、たまには試みるのもよいかもしれませんね。
2013/12/13(金)
2014/02/25(火)改訂
2015/11/15 粉茶⇒鰹昆布へ
2016/12/30 出汁の塩分を定める